不動産投資詐欺に遭い、住宅ローンを組んだが、返せない。
こういった場合でも自己破産できるでしょうか。次のような事例で検討してみます。
1 事例
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・・・(続きはこちら) 不動産投資詐欺に遭い、住宅ローンを組んだが、返せない。
こういった場合でも自己破産できるでしょうか。次のような事例で検討してみます。
1 事例
ある20代の若者がいた。マッチングアプリで女性と知り合い、その女性からある人物を紹介された。
後日、その人物に会い、こう言われた。
「住宅ローンを組んで不動産を購入し、賃貸に出す。賃料収入によって住宅ローンは返せるし、将来不動産の価値が上がれば売却して大きく儲けることもできる。賃料が入るまでのローン返済分は保証する。」
その人物から不動産業者を紹介され、その業者の指示に従って、某金融機関の住宅ローンの審査申込書に記入した。
その後、源泉徴収票などの必要書類を準備して、不動産業者を通じて住宅ローンの審査を申し込んだ。
審査が通り、本審査のために金融機関へ行く当日、不動産業者から、源泉徴収票を偽造して提出したと告げられた。
そのことを金融機関に告げることができないまま、本審査を通過し、その後融資の実行を受け、4000万円で不動産を購入した。
しばらくは住宅ローンを返済したが、他の借金などもあり、自己破産しようと考えた。
自己破産を弁護士に相談した後、当該不動産の価値が実際には2000万~2300万円程度に過ぎないことを知った。
2 自己破産できるか
⑴ 刑事上の問題
この事例で問題なのは、投資目的(第三者に貸して賃料を得る目的)であることを秘して住宅ローンを組んでいる点になります。
また、本人が偽造の源泉徴収票が提出されたことを知った後も金融機関にそのことを告げなかった点も問題です。
住宅ローンの不正利用として、金融機関から一括返済を求められるのは当然のこと、詐欺罪、私文書偽造罪、同行使罪として刑事責任を問われる可能性もあります。
⑵ 破産手続上の問題
上記のような刑事上の問題とは別に、破産手続との関係では、免責不許可事由の1つである「詐術による信用取引」に該当するという問題があります。
これに該当する場合、原則として破産をすることができません。
もっとも、裁判所が様々な事情を考慮した上で、免責相当と考えれば、「裁量免責」という形で免責許可の決定を出します。
つまり、破産自体は可能ということになります。
もちろん事案の内容や悪質性、あるいは、本人の反省の態度などから免責不許可とされることもあります。
ただ、あくまで刑事上の責任と破産できるかどうかとは別の問題です。
3 闇深い
住宅ローンには通常保証会社が付いています。
破産をされても保証会社が代わりに住宅ローンを全額返済してくれますので、金融機関は損をしない仕組みになっています。
私が経験した実際の事案でも住宅ローンには保証会社が付いていました。
しかし、その保証会社はおそらく独自の調査を行い、某金融機関に対して住宅ローンを代わりに返済しませんでした。
一方、こうして保証会社が返済してくれなかったとしても、金融機関は不動産に付した抵当権を実行すればいいわけです。
ですが、不動産の価値が2000万~2300万円しかないところに、4000万円の住宅ローンを貸し付けていますので、抵当権を実行したところで大幅な損失です。
そこで、実際の事案において、某金融機関は、免責不許可事由があるから破産させるべきではないという意見を裁判所に出してきました。
しかし、このように不動産の価値を大きく上回る額の貸し付けをするのであれば、源泉徴収票程度で簡単な審査をするのではなく、より厳格な審査を行うべきであったように思います。
そうすれば未然に源泉徴収票の偽造も見抜くことができたのではないでしょうか。
実際、投資用不動産向けの融資についてですが、「融資実行を優先するあまり、融資審査にあたり、投資目的の賃貸用不動産向け融資案件を持ち込む業者による融資関係資料の偽装・改ざんを金庫職員が看過している事例が多数認められる」などとして、財務省関東財務局から行政処分を受けた金融機関も過去に存在しています。
住宅ローンを借りた本人に重い責任があるのは当然ですが、普通に考えれば詐欺の被害者です。事実として最終的な利益を得たのは不動産業者などの詐欺グループだけです(ちなみに、不動産業者らは警察に検挙されました。)。
結果として裁量免責となったのでよかったのですが、もし免責されなかったとしたら、まだ20代の若者はどうなっていたのでしょうか。
色々な意味で闇の深い事案でした。
もっと踏み込んで書きたいことはありますが、このあたりにしておこうと思います。
不動産投資詐欺にあったら、一人で悩まずに、まずは弁護士に相談しましょう。