配偶者死亡の不貞慰謝料請求
もうだいぶ前ですが、ある不貞慰謝料事件を受任しました。
ご依頼者は独身女性で、不貞慰謝料を請求された側の方です。ここでは仮に甲子さんとします。
慰謝料を請求してきたのは、ある男性の妻でした。男性を乙男、その妻を丙子とします。ただし、乙男はすでに亡くなっていました。
丙子が乙男の遺品を整理していたところ、甲子さんと乙男が一緒に写っている写真などが見つかり、生前に両者が不貞関係にあったのではないかと疑ったようです。
甲子さんは、丙子の代理人弁護士から不貞慰謝料を請求する内容証明郵便が届いたということで、ご相談に来られました。
甲子さんの説明によれば、乙男とドライブに出かけ、屋外で写真を撮ったことはあるものの、不貞関係は一切ないとのことでした。
仮に乙男が存命で、乙男が甲子さんとの不貞関係を認めるような供述をした場合には、甲子さんの主張に反して裁判で不貞関係が認定される可能性もあります。しかし、本件では乙男はすでに亡くなっており、そのような事態は想定できませんでした。
そのため、私は、丙子が訴訟提起してくる可能性は低いだろうと判断し、こちらから特に反論せず様子を見る対応をとれば、請求を断念するのではないかと甲子さんに助言し、その日はお帰りいただきました。
ところが数か月後、甲子さんから再度相談したいとの連絡がありました。丙子から訴訟を提起されたということでした。
丙子側の主な証拠は、先の写真のほか、乙男の携帯電話の通話履歴、そして乙男の車のカーナビ履歴(具体的な内容は伏せます)です。
証拠は他にもありましたが、乙男がすでに亡くなっている状況で、当該証拠で不貞関係が立証されるとは考えにくく、勝算は十分にあると判断し、受任しました。
実際の裁判では、双方の主張と証拠提出が尽くされ、その後に甲子さん本人に対する尋問が行われました。民事訴訟では、通常このように最終段階で当事者尋問が実施されます。
尋問終了後、裁判官が間に入り、和解に向けた協議が始まりました。
民事訴訟では、尋問後に和解の話し合いが行われるのが一般的です。実際、民事訴訟事件の大半は和解で解決しており、判決にまで至るケースはごく一部にすぎません。
言い換えれば、最後まで双方が一歩も譲らず、和解が成立しなかった事件に限って、裁判官が判決文を書くことになります。
現実問題として、すべての事件について判決文を書いていては、裁判官は膨大な事件数を処理しきれません。また、事件処理件数が多い裁判官ほど評価されるという側面もあり、和解で早期解決した方が出世に有利になると言われたりもします。
加えて、判決文の作成そのものを負担に感じる裁判官も少なくないでしょうし、不貞慰謝料のような男女関係の事件であれば、なおさらかもしれません。
もちろん「双方のために」という建前上の理由もありますが、いずれにしても多くの裁判官は和解による解決を強く勧めてきます。中には、合理的な説明を尽くした上で、妥当な和解案を提示してくれる裁判官もいますが、そうでない場合も少なくありません。進め方や説明の内容が合理的でない場合など、代理人として憤りを覚えることも珍しくありません。
本件は、まさにその典型でした。どう考えても不貞の立証があったとは言えず、不貞関係を認定する判決文を書くことなど事実上不可能と思われるにもかかわらず、裁判官は「不貞関係が認められる可能性もある」として、丙子が提案する慰謝料を支払うよう、甲子さんに執拗に迫ってきました。実際は、数回の期日にわたって、つまり、何日もかけて迫られました。
しかし、甲子さんは最後までこの圧力に屈しませんでした。この姿勢こそが、本件の最大のポイントだったといえます。
もっとも、甲子さんが既婚者である乙男とドライブに出かけたこと自体は事実であり、その点について丙子に不快な思いをさせたことは否定できません。そこで、解決金として数万円(具体的な金額は伏せます)を支払うという最終提案を、こちらから行いました。
裁判官もこの提案を受け入れ、丙子を説得してくれた結果、和解で終了となりました。
民事訴訟では、証拠関係の重要性は言うまでもありませんが、それと同じくらいか、あるいはそれ以上に、裁判官という国家権力が時に強引かつ不合理に進める和解に対してどれだけ強い意志をもって対応できるかが、結果を大きく左右するように感じます。
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