労働事件②
前回の続きです。
まず、法人格否認の法理ですが、本件において具体的にどういうものかというと、Y1とY2は実質的に同じ会社であるという主張になります。
これが認められないと、X1とX2のY2に対する請求は一切認められません。つまり、X1とX2にとっては最も重要な争点となります。
当然ですが、法律上、Y1とY2は別の法人格です。これは、自然人である甲さんと乙さんの人格が別であるのと同じです。
法人格否認の法理は、このような法律上の原則の例外を認めるものですので、立法機関ではない裁判所がそう簡単にこのような例外を認めることはありません。
もっとも、本件において、裁判所は、Y1とY2の営業所、ロゴマーク、ウェブサイトなどが同一であるといった形式的な事情に加え、雇用契約締結に至る経緯や代表者Aの対応など、様々な事情を総合的に考慮し、その結果、Y1とY2の法人格は便宜的に使い分けられているにすぎず、形骸化したものであると認定し、結論として、Y2の主張はこのような形骸化した法人格の濫用に当たるとして、法人格否認の法理の適用を認めました。
X1とX2は、第一のハードルをクリアすることができました。
次に、固定残業代の問題です。これはX3とX4にも関係します。
前回も少し触れたとおり、Y2は、「出向手当」を固定残業代として支給する旨の雇用契約書や就業規則が存在することなどを理由に、残業代を支払いませんでした。
簡単に言えば、残業代は出向手当として支給しているため、それ以外の残業代は支払わないという主張です。
しかし、裁判所は、ここでもY2の主張を認めませんでした。つまり、出向手当は固定残業代には当たらないと判断しました。
裁判所は非常に丁寧に判断してくれていますが、長くなるためここでは割愛します。もし気になる方がいれば、判例タイムズ1461号(216頁)をご覧ください。
他の争点についても裁判所に認められ、結果として、X1らは第一審で勝訴しました。
これに対し、Y2は控訴してきました。
しかし、控訴審でも裁判所の心証は変わらず、第一審判決を前提とした和解の話が進められました。
裁判所での和解協議の席上、Y2の代理人弁護士がAの意思を確認するためAに電話をかけましたが、かなり揉めている様子でした。不穏な空気が流れましたが、無事に和解が成立しました。
ところが、案の定というべきか、後日、A本人が、成立した和解は無効であるとして期日指定の申立て(裁判の再開を求める申立て)を行ってきました。
代理人弁護士ではなく、A本人がこのような申立てを行ってきたのは、Aと代理人との委任関係が辞任もしくは解任により終了したからです。
裁判所は当然にAの主張を認めることはなく、和解成立による訴訟終了を宣言して、本件は終了しました。
このような「訴訟終了宣言」というものがあることをこのときに初めて知りましたが、条文には明文がなく、判例法理によるものだそうです。
なお、この事件(判例)は、「グレースウィット事件」と呼ばれています。
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