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二世帯住宅と離婚
今回は、以前に依頼を受けた離婚事件の話をしようと思います。
その方は、妻に不貞をされたということでご相談に来られました。
ご相談に来られる前に、ご自身で探偵を依頼しており、その調査報告書をご持参されました。
ホテルへの出入りを直接撮影した写真こそありませんでしたが、不貞関係にあるだろうと思われる写真は収められていました。
また、ご依頼者は不貞相手を直接問い詰めたことがあり、その際に、不貞相手が不貞関係を明確に認めており、その録音データも保有されていました。
一方で、妻は不貞関係を否定し、子を残したまま家を出て、すでに別居状態となっていました。
ただ、ご依頼者は、この時点では離婚の決断はまだできておられませんでした。
そこで、不貞慰謝料請求事件として受任し、不貞相手に対して内容証明郵便を送付しました。
しかし、不貞相手の代理人弁護士から届いた回答は、「不貞関係はない」というものでした。
不貞相手が自ら不貞関係を認めたにもかかわらず、です。
そのため、やむなく不貞相手を被告として不貞慰謝料請求訴訟を提起しました。
結局、最後まで不貞相手も妻も不貞関係を認めませんでしたが、裁判所の心証は「不貞関係があった」というものでした。
裁判所からは和解を勧められ、慰謝料額の折り合いがつきましたので、和解成立により訴訟は終了しました。
当事者が素直に認めていれば避けられたはずの訴訟であり、ご依頼者にとっては苦痛以外の何ものでもなかったと思います。
ここで話は変わりますが、ご依頼者一家は、ご依頼者が義父と共同で購入した家に、義父家族と一緒に暮らしていました。
生活空間はある程度分かれていたものの、共用部分が多く、厳密な意味での二世帯住宅ではありませんでした。
不貞発覚後、妻は家を出ていきましたので、ご依頼者は、妻のいない状況で義父家族と同居をしているということになります。
しかも、具合が悪いことに、義父家族は不貞をした妻の肩を持つという状況でした。
こうした状況の中、ご依頼者の離婚意思は次第に固まり、義父家族と同じ屋根の下で生活を続けることが大きな精神的苦痛を伴うものとなっていきました。
そのため、義父との共有名義となっている不動産をできる限り早く処分し、子とともに別の住居で新たな生活を始めたいと考えていました。
そこで、離婚と不動産の処分の問題についても、上記の不貞慰謝料請求訴訟と並行して進めていくことになりました。
しかし、この不動産は、義父との共有名義である、住宅ローンが残っている、義父家族が現に居住している、離婚の際の財産分与の対象財産である、など複雑な事情が絡み合っていましたので、非常に難しい展開が予想されました。
(この続きは次回へ)
シリヤケイカ
今日は釣りのお話です(すみません)。
5月から6月は、シリヤケイカのシーズンで、産卵のために浅場によって来る大型のシリヤケイカが釣れます。
先月中旬、蒲田から車で30分ほどのところにある横浜の海釣り施設へ行ってきました。
その日は15時くらいに入場して、3時間ほどでシリヤケイカが2杯釣れました。
釣り方はエギングと言われるもので、エギ(餌木)を投げて釣ります。
シリヤケイカの場合は、エギが海底に沈んだら少しずつ引いて、たまにエギを泳がせるように竿をしゃくるだけの簡単な釣りです。
ちなみに、イカなので思いっ切り墨を吐きます。この墨はなかなか落ちませんので、注意が必要です。
なお、2杯とも刺身にしていただきました。


労働事件②
前回の続きです。
まず、法人格否認の法理ですが、本件において具体的にどういうものかというと、Y1とY2は実質的に同じ会社であるという主張になります。
これが認められないと、X1とX2のY2に対する請求は一切認められません。つまり、X1とX2にとっては最も重要な争点となります。
当然ですが、法律上、Y1とY2は別の法人格です。これは、自然人である甲さんと乙さんの人格が別であるのと同じです。
法人格否認の法理は、このような法律上の原則の例外を認めるものですので、立法機関ではない裁判所がそう簡単にこのような例外を認めることはありません。
もっとも、本件において、裁判所は、Y1とY2の営業所、ロゴマーク、ウェブサイトなどが同一であるといった形式的な事情に加え、雇用契約締結に至る経緯や代表者Aの対応など、様々な事情を総合的に考慮し、その結果、Y1とY2の法人格は便宜的に使い分けられているにすぎず、形骸化したものであると認定し、結論として、Y2の主張はこのような形骸化した法人格の濫用に当たるとして、法人格否認の法理の適用を認めました。
X1とX2は、第一のハードルをクリアすることができました。
次に、固定残業代の問題です。これはX3とX4にも関係します。
前回も少し触れたとおり、Y2は、「出向手当」を固定残業代として支給する旨の雇用契約書や就業規則が存在することなどを理由に、残業代を支払いませんでした。
簡単に言えば、残業代は出向手当として支給しているため、それ以外の残業代は支払わないという主張です。
しかし、裁判所は、ここでもY2の主張を認めませんでした。つまり、出向手当は固定残業代には当たらないと判断しました。
裁判所は非常に丁寧に判断してくれていますが、長くなるためここでは割愛します。もし気になる方がいれば、判例タイムズ1461号(216頁)をご覧ください。
他の争点についても裁判所に認められ、結果として、X1らは第一審で勝訴しました。
これに対し、Y2は控訴してきました。
しかし、控訴審でも裁判所の心証は変わらず、第一審判決を前提とした和解の話が進められました。
裁判所での和解協議の席上、Y2の代理人弁護士がAの意思を確認するためAに電話をかけましたが、かなり揉めている様子でした。不穏な空気が流れましたが、無事に和解が成立しました。
ところが、案の定というべきか、後日、A本人が、成立した和解は無効であるとして期日指定の申立て(裁判の再開を求める申立て)を行ってきました。
代理人弁護士ではなく、A本人がこのような申立てを行ってきたのは、Aと代理人との委任関係が辞任もしくは解任により終了したからです。
裁判所は当然にAの主張を認めることはなく、和解成立による訴訟終了を宣言して、本件は終了しました。
このような「訴訟終了宣言」というものがあることをこのときに初めて知りましたが、条文には明文がなく、判例法理によるものだそうです。
なお、この事件(判例)は、「グレースウィット事件」と呼ばれています。
労働事件①
今から10年くらい前、中国人による日本での爆買いが騒がれていました。
そのころの話になりますが、当時在籍していた事務所で、在日中国人の方々から労働事件の相談を受けました。
相談の内容は、ある会社で働いていて退職したが、給与、残業代、交通費などが支払われないので、それらを請求したいという内容でした。
弁護士になって初めて相談から訴訟の最後まで単独で進めた事件でしたので、思い出に残っています。
ある会社というのは、中国人の社長Aが経営する日本の会社です。
Aは、日本で人材派遣会社を経営し、中国で中国人のIT技術者を募集、採用し、日本に呼び、日本の会社に派遣することで利益を上げていました。なお、派遣先の会社も中国人が経営する会社だったりもします。
相談者は、X1~X4の4名でした。
X1とX2は、Aの妻Bが代表取締役を務める会社Y1に採用され、日本で働き始めました。なお、実質的な経営者はAです。
しかし、X1とX2は、Y1が残業代などを支払わないことからY1に対して不信感を抱き、時期は異なりますが、それぞれY1を退職しました。
一方で、Y1は、中国において社員の募集を掛け、Aは、Y1を代表する立場で採用活動を行い、X3とX4を新規に採用しました。
しかし、まもなくしてY1は事業を停止し、解散しました。X3とX4は、Y1が解散することを聞かされずに採用されました。X1とX2も、Y1が解散することを知りませんでしたが、Y1が解散する前に退職しています。
Y1の解散と時期を同じくして、Aは、新たに会社Y2を設立し、代表取締役となり、Y1とまったく同じ事業を開始しました。Y2の営業所、ロゴマーク、ウェブサイトなどは、Y1のそれとまったく同じものでした。
Aは、来日したX3とX4に対して、さしたる事情も説明せずに、Y2と雇用契約を締結するよう働きかけ、両名は同意し、Y2の社員として日本で働き始めました。
しかし、両名は、X1らと同様の理由で、それぞれ時期は異なりますが、Y2を退職しました。
退職に対する報復であったと思われますが、Aは、X1~X4に対して、退職前1~2か月分の給与や交通費などを支払いませんでした。たまたま私が相談を受けたのはこの4名でしたが、被害者は実際にはもっといます。また、「出向手当」を固定残業代として支給する旨の雇用契約書や就業規則などを根拠に、それまでに発生した残業代を支払いませんでした。
私が相談を受けて事情を聴いたところ、4名のうち2名の方は、日本語での会話にも問題がないレベルでした。残りの2名の方も、読み書きは日本人と同程度にできるほど優秀な方々でした。話し方や佇まいも、私がそれまで抱いていた中国人のイメージとは異なっており、この件を通じて中国の方に対する認識が変わったことを覚えています。もちろんそもそも日本に好意がある方々ではありますが。
ところで、Y1が解散してしまった以上、X1とX2にとっては、未払賃金等を請求する先の会社がすでに存在しません。
そこで、Y1とY2は実質的に同一の会社であるとして、現に営業を続けているY2に対して未払賃金等を請求することとしました。
X3とX4は、もともとY2の社員でしたので、Y2に請求をしました。
Y2(の代理人弁護士)と交渉をするも、当然ながら話はまとまらず、裁判に発展しました。
裁判の争点は多岐にわたりましたが、主な争点は、法人格否認の法理と固定残業代でした。(次回に続く)
東京地方裁判所の運用
1 東京地方裁判所における自己破産手続の運用について
今回は、東京地方裁判所における自己破産手続の運用について解説します。
自己破産の申立ては、原則として、申立人の住所地を管轄する裁判所に対して行います。
東京の場合、23区内に居住していれば東京地方裁判所本庁、多摩エリアであれば東京地方裁判所立川支部が管轄となります。
裁判所であれば、どこに申し立てても同じ扱いをしてくれると思われがちですが、実際には、自己破産手続の進め方や運用は裁判所ごとに異なります。
東京地方裁判所においても、本庁と立川支部とでは運用に明確な違いがあります。
2 本庁と立川支部の大きな違い ― 即日面接の有無
両庁の最も大きな違いは、「即日面接」の有無です。
東京地方裁判所本庁では、申立てが受理された後、申立人代理人は原則として3営業日以内に裁判官との面接を行わなければなりません。
これに対し、立川支部では即日面接は実施されていません。
即日面接では、裁判官から申立書の内容について質問がなされ、代理人がそれに回答します。現在は電話による実施が一般的となっています。
3 同時廃止事件と少額管財事件の振り分け
特に問題となりやすいのは、同時廃止事件として申し立てた場合です。
裁判所が同時廃止事件相当と判断し、かつ申立書類に不備がなければ問題はありません。
しかし、裁判所が同時廃止事件で進めることに疑問を抱いている場合や、書類に不足がある場合には、即日面接の場で少額管財事件へと変更されることがあります。
例えば、通帳については、過去2年分、かつ、申立前1週間以内に記帳したものの提出が求められますが、これが守られていない場合などは、調査不足として少額管財事件に変更される理由となります。コピーの不備などによる欠落であっても問題視されるため、細心の注意が必要です。
少額管財事件に変更されると、原則として20万円の管財人費用が追加で必要となります。これは申立人にとって大きな負担であり、代理人にとっても重大な問題です。
一方、当初から少額管財事件として申し立てる場合には、管財人費用を準備したうえで手続を進めるため、このような問題は生じません。また、その場合の即日面接は比較的簡潔に終了する傾向があります。
4 立川支部の運用
立川支部では即日面接がなく、裁判所が一定期間をかけて申立書を精査します。
不明点があれば裁判所から追加資料の提出や説明を求められ、それに適切に対応すれば、直ちに少額管財事件へ変更されることは通常ありません。
この点は、本庁との大きな違いといえます。
5 債権者集会の実施方法の違い
債権者集会は少額管財事件の場合に開かれるものですが、立川支部をはじめ多くの裁判所では、法廷などの個室で個別に債権者集会が実施されます。
他方、東京地方裁判所本庁では、大きな部屋に複数のブースを設け、一斉に実施される方式が採られています。
なお、同時廃止事件の場合は、免責審尋という手続きがあり、本庁ではこれに出席する義務があるのですが、立川支部ではそもそも免責審尋という手続きが省略されています(現在の運用ですので、今後変更があるかもしれません。)。
6 裁判所ごとの運用を踏まえた対応の重要性
このほかにも、自由財産の取扱いなど、裁判所ごとに細かな運用の違いがあります。
自己破産手続は全国一律の制度ではあるものの、実務運用には地域差があります。
そのため、申立てを行う裁判所の運用を十分に理解したうえで準備を進めることが重要です。
裁判所の実情を熟知した弁護士に依頼することが、円滑な手続進行のための重要なポイントといえるでしょう。
配偶者死亡の不貞慰謝料請求
もうだいぶ前ですが、ある不貞慰謝料事件を受任しました。
ご依頼者は独身女性で、不貞慰謝料を請求された側の方です。ここでは仮に甲子さんとします。
慰謝料を請求してきたのは、ある男性の妻でした。男性を乙男、その妻を丙子とします。ただし、乙男はすでに亡くなっていました。
丙子が乙男の遺品を整理していたところ、甲子さんと乙男が一緒に写っている写真などが見つかり、生前に両者が不貞関係にあったのではないかと疑ったようです。
甲子さんは、丙子の代理人弁護士から不貞慰謝料を請求する内容証明郵便が届いたということで、ご相談に来られました。
甲子さんの説明によれば、乙男とドライブに出かけ、屋外で写真を撮ったことはあるものの、不貞関係は一切ないとのことでした。
仮に乙男が存命で、乙男が甲子さんとの不貞関係を認めるような供述をした場合には、甲子さんの主張に反して裁判で不貞関係が認定される可能性もあります。しかし、本件では乙男はすでに亡くなっており、そのような事態は想定できませんでした。
そのため、私は、丙子が訴訟提起してくる可能性は低いだろうと判断し、こちらから特に反論せず様子を見る対応をとれば、請求を断念するのではないかと甲子さんに助言し、その日はお帰りいただきました。
ところが数か月後、甲子さんから再度相談したいとの連絡がありました。丙子から訴訟を提起されたということでした。
丙子側の主な証拠は、先の写真のほか、乙男の携帯電話の通話履歴、そして乙男の車のカーナビ履歴(具体的な内容は伏せます)です。
証拠は他にもありましたが、乙男がすでに亡くなっている状況で、当該証拠で不貞関係が立証されるとは考えにくく、勝算は十分にあると判断し、受任しました。
実際の裁判では、双方の主張と証拠提出が尽くされ、その後に甲子さん本人に対する尋問が行われました。民事訴訟では、通常このように最終段階で当事者尋問が実施されます。
尋問終了後、裁判官が間に入り、和解に向けた協議が始まりました。
民事訴訟では、尋問後に和解の話し合いが行われるのが一般的です。実際、民事訴訟事件の大半は和解で解決しており、判決にまで至るケースはごく一部にすぎません。
言い換えれば、最後まで双方が一歩も譲らず、和解が成立しなかった事件に限って、裁判官が判決文を書くことになります。
現実問題として、すべての事件について判決文を書いていては、裁判官は膨大な事件数を処理しきれません。また、事件処理件数が多い裁判官ほど評価されるという側面もあり、和解で早期解決した方が出世に有利になると言われたりもします。
加えて、判決文の作成そのものを負担に感じる裁判官も少なくないでしょうし、不貞慰謝料のような男女関係の事件であれば、なおさらかもしれません。
もちろん「双方のために」という建前上の理由もありますが、いずれにしても多くの裁判官は和解による解決を強く勧めてきます。中には、合理的な説明を尽くした上で、妥当な和解案を提示してくれる裁判官もいますが、そうでない場合も少なくありません。進め方や説明の内容が合理的でない場合など、代理人として憤りを覚えることも珍しくありません。
本件は、まさにその典型でした。どう考えても不貞の立証があったとは言えず、不貞関係を認定する判決文を書くことなど事実上不可能と思われるにもかかわらず、裁判官は「不貞関係が認められる可能性もある」として、丙子が提案する慰謝料を支払うよう、甲子さんに執拗に迫ってきました。実際は、数回の期日にわたって、つまり、何日もかけて迫られました。
しかし、甲子さんは最後までこの圧力に屈しませんでした。この姿勢こそが、本件の最大のポイントだったといえます。
もっとも、甲子さんが既婚者である乙男とドライブに出かけたこと自体は事実であり、その点について丙子に不快な思いをさせたことは否定できません。そこで、解決金として数万円(具体的な金額は伏せます)を支払うという最終提案を、こちらから行いました。
裁判官もこの提案を受け入れ、丙子を説得してくれた結果、和解で終了となりました。
民事訴訟では、証拠関係の重要性は言うまでもありませんが、それと同じくらいか、あるいはそれ以上に、裁判官という国家権力が時に強引かつ不合理に進める和解に対してどれだけ強い意志をもって対応できるかが、結果を大きく左右するように感じます。
アジ
新年あけましておめでとうございます。
年が明けて1月3日、さっそく釣りに出かけてきました。場所は、蒲田からもほど近い横浜・みなとみらいエリアです。人も多くなく、夜景が綺麗で、ちょくちょく花火もあがったりするいい場所です。
この日は息子と2人でアジ60匹と、大きなサバ1匹を釣りました。
釣り場には昼間から入るのですが、到着してすぐに釣れるわけではありません。通常は、日が沈み始める「夕マヅメ」と呼ばれる時間帯から釣れ始めます。釣れ始めても、20~30分ほどで群れが抜けてしまうことも少なくありません。
ところがこの日は違いました。まさに入れ食い状態で、竿を入れるたびに魚がかかり、いつまでも釣れ続けるような状況だったのです。
釣っている時間はもちろん楽しいのですが、持ち帰った魚を捌く作業はなかなかの重労働です。その日は釣りで疲労困憊の中、無の境地でひたすらアジを捌き続けました。翌日、3分の1くらいをアジフライとなめろうにして、おいしくいただきました(残りは冷凍)。
当日釣った魚の写真をアップしようとしましたが、量が多すぎてややグロテスクと感じてしまいました。不快に感じる方もいるかもしれないと思い、夜景の写真をアップすることにしました。


疑わしきは罰せず
刑事裁判の大原則に「疑わしきは罰せず」というものがあります。
犯人であるかどうか疑わしい人、不確かな人、怪しいだけの人を処罰してはいけないという原則です。
実際にどういう基準で判断されるかというと、その人が犯人であることが「合理的な疑いを超える」程度に証明されなければ有罪にできないとされています。
この「合理的な疑いを超える」程度がどの程度のものかというと、一般人の常識に照らして「間違いない」と確信できる程度とされています。
「100%有罪である」という状態までは求められていませんが、「疑いを差し挟む余地がない」ほどの状態は必要とされています。
では、「合理的な疑いを超える」程度の証明があったかどうかを判断するのは誰でしょうか。
ご存じのとおり、裁判官です。つまり、人間です。
人間が判断するので、時には「合理的な疑いを超える」程度の証明があったとは言えないのに有罪判決が下されることもあります。
日本は三審制ですから、判決の内容に不服があれば、控訴、上告ができますが、結局判断をするのは人間です。
控訴審の裁判官が「合理的な疑いを超える」程度の証明があったかどうか内心疑わしいと思ったとしても、一審判決を覆すのが面倒だな、迷うなと思ったら、理屈をつけて一審判決と同じ判断をしてしまえばいいのです。
社会に注目されていない事件であれば、そのような動機はより働きやすいと考えられます。
日本は起訴されたら「99.9%」有罪などと言われています。
弁護士として刑事事件をやっていると、そうなるのは当然だよな、と思ったりもします。
なぜなら、さすがにこれは「合理的な疑いを超える」程度の証明があったとは言えないから無罪になるだろう、というような事件でも、ふたを開けてみたら有罪判決が下されるからです。
結局、このように、「合理的な疑いを超える」程度の証明があったとは言えない事件も有罪にされているからこそ、「99.9%」という驚異的な数字が出てくるのだと思います。
特に若手の裁判官などは、「99.9%」が有罪判決という現実の中で、無罪判決を書くというのには、よほどの勇気がいるでしょうし、無罪判決を書くことで異端児扱いされてしまうかもしれません。場合によっては自分の出世に響くかもしれません。
もちろんしっかりとした判断をする裁判官もたくさんいますし、無罪判決が下されることももちろんありますが、実際にはもっと無罪判決が出ていてもおかしくないと実感します。
ただ、一方で、真実は犯人であるにもかかわらず、提出されている証拠がそれほど強くないことをいいことに、あわよくば無罪になるかもしれないと考えて、自分はやっていないと主張し続ける犯人もいるでしょう。「疑わしきは罰せず」を逆手にとった状態です。
こういった犯人について、「合理的な疑いを超える」程度の証明がないから無罪にしてしまうというのも、それはそれで不合理だったりもするわけです。被害者がいる事件であれば、なおさらです。
だからといって、「合理的な疑いを超える」程度の証明がないにもかかわらず有罪にしていたら、冤罪は永遠になくなりません。
刑事裁判は、その難しさと責任の重さの中で、「真実の発見」と「人権の保障」の双方を守るバランスが常に求められていると言えます。
アオリイカ
弁護士として別の事務所に勤めていた頃、地方への出張に出かける機会がよくありました。
出張先は北海道、秋田県、広島県、長崎県、熊本県など全国各地に及びます。
一度の出張は四~五泊ほどが多く、業務が終わった夜には、趣味のアオリイカ釣りを楽しむこともありました。
北の地方ではアオリイカが少ないため、北海道や秋田県では釣りは控えていましたが、長崎県や熊本県を訪れる際には、ほぼ毎回のように竿を持って出かけていました。
特によく釣れたのは、長崎県南端の樺島町や、熊本県天草のさらに南にある牛深町です。
釣り方は、活きたアジを餌にして泳がせる「泳がせ釣り」という方法。運が良いと、子犬ほどの大きさのアオリイカが掛かることもあります。
釣ったアオリイカは、もちろん刺身などにして味わいます。新鮮なアオリイカの透き通った身と甘みは格別で、出張の疲れを癒やしてくれる瞬間でした。
下の写真は、静岡県土肥で釣ったアオリイカです。
釣りを通じて、仕事の合間にも自然の豊かさや土地ごとの魅力を感じることができる——そんな出張の思い出が、今でも心に残っています。


いつの間にか受取人が変わっていた
1 「いつの間にか受取人が変わっていた」とのご相談
少し前のことになりますが、知人のお子さん(学生の姉妹)から、次のような相談を受けました。
「私たちABの父Cは、生前、私たちを保険金受取人にして生命保険に加入していました。ところが、いつの間にか受取人が別の人に変わっていたようです。」
調査の結果、生命保険金はCの母親、つまりABの祖母Dに支払われていたことが判明しました。
受取人がABからDに変更されていたのです。ちなみに、Dは当時80歳を超えていました。
「娘を受取人にしていた父親が、わざわざ自分の母親に変更するだろうか」──誰もが首をかしげるところです。
さらに、受取人の変更が行われたとされるのは、Cが亡くなる数週間前であったことが判明しました。
当時Cは入院中で、病状から見ても、受取人変更の手続きを自ら行える状態ではありませんでした。
2 調査・請求と保険会社の対応
私たちはCが入院していた病院からカルテ等の資料を入手し、主治医から事情を聴取した上で意見書等を作成してもらいました。
そのうえで、「受取人の変更は無効である」として、保険会社Eに対し保険金の支払いを請求しました。
EはテレビCMなどでもよく知られる老舗の生命保険会社です。
当然、簡単に非を認めることはなく、証拠を示して交渉してもなお、回答は次のとおりでした。
「C様が受取人をD様に変更された以上、AB様への支払いはできません。」
やむなく、ABを原告、Eを被告として訴訟を提起することにしました。
なお、Dは自ら弁護士を付け、Eを補助する形で訴訟に参加しました(民事訴訟法上の「補助参加」)。
Eが敗訴すれば、Dは受け取った保険金を返還しなければならないため、E側に立つのは当然といえます。
3 争点 ―「C本人の意思表示」はあったのか
保険法43条2項は、「保険金受取人の変更は、保険者に対する意思表示によってする」と定めています。
したがって本件の主要な争点は、CがABからDに受取人を変更する意思表示をしたかどうか、という一点に尽きました。
保険会社は通常、受取人変更の際に契約者本人の署名(自署)を求めます。
Eも、Cが署名したとされる受取人変更届を証拠として提出しました。
Eの主張は、「Cの病室において、Dとその長男F(ABの叔父)が立ち会い、営業担当Gの面前でCが自署した」というものでした。
なお、Gは、Dと何十年も付き合いがあるベテラン営業員です。
4 裁判所の判断 ― 署名は本人のものではない
裁判は長期化しましたが、最終的に裁判所は「Cが自署したとは認められない」と判断しました。
つまり、C本人の意思による受取人変更は存在せず、変更は無効であると認定されたのです。
その結果、EはABに対し保険金を支払うよう命じる判決が下されました。
なお、Eは「Cの意思に基づいて代筆したものだ」という主張もしましたが、それも退けられました。
Eは判決を不服として控訴しましたが、控訴審の裁判官の心証も同じでした。
最終的には和解となり、ほぼ請求額どおりの金額で決着しました。
約9割をDがABに支払い、残りの約1割をEがABに支払うというような内容の和解です。
5 この事案が示すもの
裁判所の判断は「Cが自署したとは認められない」というものでした。
裏を返せば、「誰かが署名を偽造した」ということになります。その“誰か”については、言うまでもありません。
第一審判決ではこの点に直接触れていませんが、実質的にはこのような判断をしているということになります。
また、D・F・Gの3名は証人尋問において「偽りを述べない」と宣誓したにもかかわらず、偽りの証言を行ったことを意味します。
とりわけ問題なのは、保険営業員Gです。
Gの積極的関与がなければ、Eが受取人変更届を受理することも、Dに保険金を支払うこともなかったはずです。
当然、そのような社員を抱える保険会社Eにも、組織としての責任が問われるべきです。
ちなみに証人尋問の当日、傍聴席にはEの関係者がずらりと並んでいました。
私や裁判官、もしくは保険営業員G、はたまたEの代理人弁護士に対して、何らかの“圧力”を感じさせる意図でもあったのでしょうか……。


